PTSD(心的外傷後ストレス障害)

  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)の病態について
  • PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなって、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるものです。地震、洪水、火事のような災害、または事故、戦争といった人災、あるいはいじめ、テロ、監禁、虐待、パワハラ、モラハラ、DV、性被害、体罰などの犯罪、つまり、生命が脅かされたり、人としての尊厳が損なわれるような多様な原因によって生じてきます。。トラウマには事故・災害時の急性トラウマと、児童虐待など繰り返し加害される慢性の心理的外傷がありますが、治療が難しいのは子供時代に受けた慢性のトラウマです。。反復的かつ侵入的なフラッシュバック、強い緊張状態による過度の覚醒(全く眠れない)、怒りの爆発や混乱、集中困難、過度の警戒心など多彩な症状が現れます。
  • 性被害について  
  • 最初からこの問題に関して話してくる女性はほとんどいません。状況は様々で、相手の多くは知り合いの男性や知人、上司などが多いようです。最初は不眠や抑うつ状態、閉所恐怖感などで受診されますが、次第に主治医との信頼関係ができるに従って、この物語が語られることが多いようです。後遺症として男性不信、閉所恐怖感、不眠、物音に対しての過敏性などがあり、裁判などでさらに病状を悪化させる可能性もあり、本人への配慮が最優先であることが大切です。
  • 子供時代の心の傷とアダルトチルドレン
  • 家庭内環境(家庭問題)において、身体的虐待は暴力や近親姦、性的虐待などの具体的事実によって顕在化しやすいのですが、親から子への愛情の不足や子供に全くな関心を持たない心理的虐待(ネグレクト)は、周囲からは非常にわかりにくいのですが、特に精神的虐待を行っている親は自分が行っている言動や行動がが、しつけのレベルを超えて虐待であることに気づいていないこともよくあります。よって児童思春期に問題を発見することは非常に困難である。ところが成人し自立した後、年齢を問わず幼少期の心の傷の苦しみの出現によって、長期間にわたり精神的に苦しむのである。「親からの虐待」「アルコール依存症の親がいる家庭」「家庭問題を持つ家族の下」で育ち、その体験が成人になっても心理的外傷(トラウマ)として残っている人をアダルトチルドレンといいますが、見捨てられ不安、人間不信、承認欲求が強い、自己中心的、いつも安全でない感覚、根拠のない罪悪感、などの特徴があり、成人後も無意識裏に実生活や人間関係の構築に、深刻な影響を及ぼしてきます。この感覚や考え(認知)は中核信念(スキーマ)と呼ばれ、どんなに努力してもなかなか抜け出せないもので、次第に人格が歪められてしまいます。
  • 解離性障害と児童虐待
  • 解離症状では、体験や、感情、感覚、意識の一部が統合を失い、意識化されなかったり、感じられなかったり、なくなったようになり、バラバラに出てきます。例えば突然にいる場所がわからないこともあったり、自分が自分でないような感覚があったり、誰も聞こえていない音や声が聞こえてきたりします。また暗い場所で突然恐怖に襲われたり、いろんな症状が出てきます。また気づくと部屋がめちゃくちゃになっていたり、リストカットしていて血だけが流れていたりなどの状況にも陥ります。また不気味な臭いや原因不明のかゆみなども出現してきます。一方、重症の病的な解離症状は、一般の方には理解が困難で、精神科医や心理カウンセラーでも、幻覚、妄想や混乱状態と混同してしまい解離症状を把握していない場合がしばしばみられます。また一応の知識は持っていても、この症状を経験し理解していないと見逃してしまうことが多いようです。原因は深刻な児童の時に大きなトラウマが原因で 長期間続くと深刻なダメージとなります。親などが精神的に子供を支配していて自由な自己表現が出来ないなどの人間関係、ネグレクト、家族や周囲からの児童虐待(心理的虐待、身体的虐待、性的虐待)、殺傷事件や交通事故などを間近に見たショックや家族の死などが原因ですが、一番わかりにくいのは暴力や暴言が一切なく、養育者(親)が応答してくれない、波長を合わせる(attunement) ことを行わないことが実は深刻な傷となり、いわゆる「慰めの不足」の状態をつくりだすことです。また 過保護でありながら支配的な家庭環境によるストレスでも相当することがあります。母親はすごく良い子で手がかからずスムーズに育ってきたと思っていた。 しかし娘は、いい子でいなくてはと親の気持ちをくみ取りながら生きているうちに自分の気持ちが内側にこもり、やがて耐えられなくなり解離が始まりだすこともあります。この異常な母娘関係に何らかの性的虐待が重なり、成人するにつれて人格の変化が出てきてしまうのです。重症な解離症状としては多重人格障害があげられますが、何らかの環境刺激にて何人もの人格が交替し、人間関係はトラブル続きで生活に支障がでてきます。
  • 治療と回復について
  • 過去の悲惨な体験であるが故に、どうしてもそのことから回避行動を取ってしまいがちですが、本質的には過去を出来事をすべて受け入れることが必要です。その方法は暴露療法に代表されるナラテブ・エクスポージャ・セラピイやEMDRといった心理療法が代表的ですが、かなりの苦痛を伴います。また、幼少期の養育が問題となって慢性のPTSDとなってる場合は、現在の生活で問題になっている部分の解決が優先することが多いように感じます。多くは機能不全家族と共依存が根底にあり、まずは共依存関係の見直しや、それからの脱却が必要であったりもします。共依存からの脱却は容易ではありませんが、もし脱却がうまく行かないようでしたら、人間関係に悪影響を及ぼしているスキーマ(見捨てられ、罪悪感、守られていない・・)の修正や対処が先かもしれません。
  • このように年齢が小さい時期に受けた傷が多きければ大きいほど、解離症状は深刻な状態を招きます。PTSDに対してはSSRIや抗うつ剤が有効ですが、解離症状には有効な薬物はないような印象を受けます。私のところになぜか解離症状を持つ患者が多く来院します。治療経験上、まずは解離しない安全な環境を提供すること。人間関係を適切に整理すること。支えてくれるパートナーを支えていくことが大事と思います。例えば多重人格障害では、通常の人格から 突然、攻撃的な人格に交替したとき パートナーにとってみれば、なんの原因もなくただひたすら罵声を浴びることになり、いったい何が起こっているかがわからず 戸惑うことも多く、また本人を支えれないと思う喪失感になります。このような状況が起こったとき、我々医療関係者はパートナーに人格の交替であることを説明し、励まし支えていくことが非常に重要な役割であることを痛感します。